ブロックチェーン技術:ヘルスケアにおける次世代デジタルプラットフォーム

臨床試験の成績から偽造品対策まであらゆる情報の信頼性が革命的に向上

SNSで日常生活を共有する時代にあっても、私たちは自らの健康に関する情報を提供することには慎重です。このように信頼感が醸成されていない一方で、ヘルスケアの現場では膨大なデータが共有されており、これらのデータが今後、ヘルスケア業界全体に変化をもたらす可能性があります。信頼性と透明性の確保が大きな課題です。

健康情報のセキュリティを確保するカギは、ブロックチェーンと呼ばれる新たな技術が握っています。ブロックチェーンは当初、ビットコインなどの仮想通貨に使われ、オープンな公共ネットワーク上であっても匿名のユーザーがプライベートな取引を確実に行える技術として開発されました。現在、ブロックチェーン技術は健康データの分析、医療機器のセキュリティや電子カルテなどにおいて活用が試みられています。また、臨床試験の効率化や新たな治療法の承認の迅速化、医薬品の偽造品の減少や、費用に関する透明性の向上など、様々な用途に応用される可能性があります。

ブロックチェーンは、信頼を産業化する技術です。
ミリンド・カムコルカ サノフィ チーフ・データ・オフィサー (CDO)

偽造医薬品との戦い

ヘルスケア領域におけるブロックチェーンの活用がさらに進めば、この技術がもつ信頼性を確保する特性が偽造医薬品との戦いに生かされるかもしれません。世界保健機関(WHO)は、2017年11月、途上国では医薬品10品目のうち1品目が偽造品か基準に達しない製品であると報告しました。 偽造医薬品の問題はここ10年間にさらに拡大し、途上国では特に深刻です。有効成分が少なかったり、全く含まれていない偽造品を用いると、死に至る可能性もあるからです。

ブロックチェーン技術を活用すれば、工場から患者さんまでの医薬品の流通を追跡することも可能です。政府の医療制度、薬局や患者さんがこのような情報を参照することができれば、偽造品が患者さんの手に渡ることがきわめて困難になります。米国の「 医薬品サプライチェーン安全保障法(DSCSA) 」などの厳格な規制の遵守が求められる際にも役立つ技術です。

「この問題に取り組む各種のコンソーシアムが形成されています」とカムコルカCDOは述べています。

新たな競争の時代が到来し、信頼と透明性が大きな差別化要因となりつつあります
Richie Etwaru 未来学者・ヘルスケア分析企業IQVIAのCDO

臨床試験の改善

臨床試験はヘルスケアにおいてきわめて重要な側面の一つで、患者さんの信頼を得ることが不可欠です。ブロックチェーン技術は、必要なデータを収集し共有しながら、患者さんのプライバシーを保ち機密情報を守る技術として活用できるようになるでしょう。「この技術を活用することで、費用削減と効率向上につながる可能性があります。」と、サノフィのデジタル臨床ソリューションセンター長のレミ・コシナンド(Remi Chossinand)は述べています。

参加基準を満たす患者さんがきわめて少ない希少疾患の臨床試験でも、ブロックチェーン技術は有用と考えられます。ブロックチェーンを用いると、臨床試験の機密を保持しながらデータを交換することができます。この技術を活用すれば、医薬品開発の時間を短縮でき、新たな治療法をより早く患者さんにお届けできるようになると期待されています。

ブロックチェーン技術を活用して一部の情報を他の臨床試験と共有し、競合他社と持ち合うことで、医薬品の開発費用を効率的に分担することが可能になります。
レミ・コシナンド サノフィ デジタル臨床ソリューションセンター長

患者さんとデータとの関係を変える

ブロックチェーンは今後、ユニバーサルな電子カルテの基本技術として用いられる可能性もあります。現在使われている固有の技術とブロックチェーンの最大の違いは、記録データを管理するのは誰かという点です。

ブロックチェーン技術の導入により、患者さんが自分自身の健康情報を管理し所有する権利がより高まり、患者さんと、保険支払者や医薬品研究者との関係が変わるかもしれません。これらの記録は、費用予想、アウトカム(医学的介入で得られる結果)の理解や、臨床試験の被験者となり得る方々の特定など、様々な局面で価値あるデータとなります。企業がこのような情報にアクセスする際に、個人に対価を支払うようになる時代が到来するかもしれません。

「患者さんがブロックIDを持てば、データは患者さんのものになります。患者さんが保険支払者に情報を提供し、その対価を請求するという新たな商取引の形が生まれましょう」と、カムコルカCDOは述べています。

地平線の上に

イノベーションはヘルスケアに欠かせない要素です。ブロックチェーンは、サノフィの将来のデジタル戦略を支え、研究開発のみならずヘルスケア全体への取り組みに革命をもたらす技術としての活用が期待されています。